2013年11月26日火曜日

破産者による子会社の滞納国税に対する納税保証と破産法160条3項の否認権行使の可否

東京高判平成25年7月18日
金融法務事情1982号120頁

「不動産クレジットからの債権回収及び日本振興銀行からの融資は、いずれも本件納税保証の対価となる経済的利益にあたるとはいえない。
すなわち、同社からの債権回収は、もともと破産者の責任財産(積極財産)に含まれている同社に対する既存の債権を回収するものであって、これを回収したからと行って、破産者にその責任財産の増加という経済的利益をもたらすものではない。しかも、同社は、既に国税を滞納し、平成21年2月3日、関東財務局長に対して業績不振のんため貸金業を廃止した旨を記載した廃業等届出書を提出し、それ以降は債権の回収程度の業務を行う状況であり(乙11)、同月10日、当局国税局がその資産状況や資金繰り状況等を調査するため破産者(同社の親会社)に臨場して同社の決算調整前の貸借対照表及び損益計算書を調査しても同社は担保となる資産を有しているとは認められなかったのであって、破産者の消極財産となる債務の増加のみを生じさせる行為である本件納税保証を行い、上記状況にある同社に対する滞納処分を当面回避したからといって、それが破産者の責任財産を維持することにあるとも認められない。」

「破産者が日本振興銀行からの融資を受けることも、破産者の積極財産を増加させるものではない。しかも、当該融資は、破産者の説明によっても、平成21年2月10日(火曜日)の時点では、前日に金融機関数行と借入交渉を行い、日本振興銀行から借入交渉に応じるとの回答があったが、検討会が週明けになり、融資の実行は同月19日又は同月20日になる見込みであるとされ、同月13日に本件納税保証がされた後の同月20日(金曜日)の時点においても、同銀行の稟議は取り付けることができたが担保条件が厳しく折り合いがついていないといった状態であり、実現可能性の乏しいものであった。」

「本件納税保証は、破産者が本件小切手1による債務とは別個の、しかも国税債権者に自力執行権や優先徴収権が付与された租税債権を負担することにあるのであって、これが破産債権者を害し、破産財団の価値を実質的に減少させるものである」

「本件納付が破産者によってなされたものであることを認めるに足りる証拠はない。すなわち、平成21年2月10日、破産者の預金口座から保険納付の原資となり得る3億7907万1000円が出金され(甲12の1)、破産者の総勘定元帳には合計額が本件納付額と同額となる「PGS立替分 法人税」の記載がある(甲12の2)が、上記出金がされてその一部がPGSの滞納国税の支払に充てられたとしても、そのことによって直ちに破産者が上記国税を第三者納付したと認めることはできない(例えば、第三者が納税者に納税資金を貸し付け、これによって納税者が納税をした場合であっても、第三者においては自ら立替払いをした旨の会計処理をすることがあり得る。)。そして、本件納付に係る同日付け領収証書(乙43)は、それ自体がPGS以外の第三者が上記国税を納付したことを示すものではなく、しかも破産者に関する記載は一切存在しないのであるから、これをもって破産者が本件納付をしたものと認めることはできない(むしろ、国税通則法41条1項、国税通則法施行規則16条、同規則別紙第1号書式備考7に定める第三者納付の手続がされた形跡がないことからすれば、本件納付はPGSが行ったものと推認される。)。」

全部義務者からの弁済により再生債権への弁済資金に余剰が生じ多場合の取扱い

弁護士 印藤弘二
金融法務事情1982号4頁

日本の更生手続において認可された更正計画が米国連邦倒産法15章の手続において承認された初めての事例-エルピーダメモリ事件-

弁護士 小林信明
弁護士 渡邉光誠
弁護士 丸山貴之
金融法務事情1982号44頁

「私的整理の法理」再考-事業再生の透明性と信頼性の確保を目指して-

早稲田大学大学院法務研究科教授 伊藤眞
金融法務事情1982号30頁

中小規模裁判所における法人破産事件処理の在り方-各地の実情を踏まえた中小規模の裁判所での法人破産事件処理を中心に-

日本弁護士連合会倒産法制等検討委員会
金融法務事情1982号6頁

事業再生研究機構主催シンポジウム「金融実務から見た事業再生の課題」

弁護士 多比羅誠
NBA1013号34頁

利益相反取引と破産管財人の第三者性

東京地判平成25年4月15日
判タ1393号360頁

「Y[註:破産者]の差押債権者は、原告の取締役会の承認決議不存在につき悪意であることを主張立証しなければならない第三者にあたると解するのが相当である。
そうであるとすれば、本件破産手続開始決定後のYの破産債権者も同様に保護すべきである。しかし、破産債権者は個別的権利行使を禁止され(破産法100条1項)、破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専属するのであるから(破産法78条1項)、破産債権者を保護するためには、破産債権者全員の利益代表者としての破産管財人を差押債権者と同視する必要がある。そうすると、Yの破産管財人である被告は、その破産債権者全員の利益代表者として、原告の取締役会の承認決議不存在につき悪意であることを主張立証しなければならない第三者にあたるものと解するのが相当である」

「被告が、原告の取締役会の承認決議不存在につき悪意であることを主張立証しなければならない第三者にあたると解する根拠は、Yの破産管財人である被告がその破産債権者全員の利益代表者であり、Yの破産債権者全員を差押債権者と同様に保護すべきであるからである。そうすると、第三者である被告が悪意又は重過失であるかどうかについては、破産債権者を基準に判断するのが相当であり、利益相反取引による無効を主張する者は、破産手続開始決定時を基準として、破産債権者全員が悪意又は重過失であることを立証しなければならず、その中に一人でも善意かつ無重過失の者がいれば破産管財人に対して無効を主張することはできないものというべきである。」